江戸時代は歌舞伎や落語、相撲など様々な文化が庶民たちの娯楽として楽しまれるようになった。
また、それまで単なるコミュニケーションツールだった「文字」もこうした文化とともに自由に発展していった時代だ。
「江戸文字」と呼ばれる書体は、実に多彩でセンスに富みグラフィカル。
そしてかっこいい。
例えば「寄席文字」は極太の筆を使い隙間がないのが特徴。
これは客席に隙間がないほど大入りするようにという願いが込められている。
他にも籠文字は祭りの際の法被(はっぴ)に染めつけられて地域やグループを識別したりするロゴマークの役割を果たしていたり、歌舞伎文字や相撲文字といったそれぞれ専用の書体があったりと、調べていくととても面白い文化である。
現代に暮らすぼくたちには全然読めなかったりするんだけど、ジャパニーズスタイルのグラフィティアートといった趣きがある。
序文の一節を引用する
様式としての江戸文字は「くずしの文字」ともいい得る。くずしとは元の形の省略であり、使いづらいものを使いやすくする操作でもあって、漢字の草体から、ひらがなが生じた例がそれであるが、
江戸文字の場合は必ずしもそうではなく、オーソドックスを無視し、またそうすることで背後の権威の総体に一つの反措定(はんそてい)をおく、といった文字の機能論とはべつなところに基本的な動機があったように思える。
街角のグラフィティアートに通じる部分がないだろうか。
この本は1970年に発行されて絶版になっていたものの新装版。
江戸文化とともに花開いた江戸文字のアーカイブとして、そしてデザインをやっている方にとっては新たな気づきをもたらす貴重なデザインソースとなるだろう。
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